ニュースの概要
東京メモリードホールが2025年、新たな貸切型家族葬空間「第8ホール~Living~」を開設した。リビングの語が示す通り、従来の格式張った式場ではなく、住まいの延長のような温かみのある空間で、家族や親しい人々だけで故人を見送る形態を打ち出している。近年、参列者を限定して小規模で行う家族葬の需要が増え続ける中、業界側は空間設計の工夫で差別化を図っている。同社は既存の7ホールに加えて8つ目の会場を「リビング」と名付けたことで、いわゆる「 gathers around living」のように、遺族が自宅のように寛いで過ごせる環境を目指した点が特徴的である。
引用元: 【家族葬ニーズの高まりに対応】東京メモリードホールに貸切型家族葬空間『第8ホール~Living~』オープン(PR TIMES)
分析・見解
「Living」の名が示すリビング型葬儀という設計思想
従来の家族葬専用ホールは、祭壇を中央に据えた和風の式場をそのまま縮小したものが多かった。対して「Living」と銘打つ空間は、ソファやダイニングテーブルを配し、故人を囲んで過ごす時間がそのまま葬儀の時間になるという発想の転換である。背景にあるのは、家族葬を選ぶ遺族の動機が「形式より対話」を重視する方向へ移っている事実である。参列者が10〜20名程度の場合、堅い祭壇の前で焼香を待つよりも、椅子を移動して互いに顔を合わせながら思い出を語る方が、自然な別れに直結するというのが事業者の読みだろう。
既存7ホールとの差別化で広がる選択肢の幅
同社はこれまで7つのホールを運営しており、それぞれに式仏教、神道、キリスト教など宗教・宗派別の特色を持たせてきたとみられる。新設の「Living」はこれらとは異なる選択肢として位置づけられ、宗教色を抑えた無宗教葬や、自由な形式で故人を偲ぶ「人形供養」「遺品整理」まで含めた総合的なセレモニーの受け入れを視野に入れる。遺族にとっては葬儀社から提案される会場が一つ増えるだけでなく、「自分の価値観に近い空間を選べる」という心理的な余裕が生まれる。
業界全体の家族葬シフトを後押しする3つの背景
家族葬の比率は公益社団法人全日本葬祭業協同組合連合会の調査でも毎年上昇しており、新型コロナウイルスの影響を経て一般化した感がある。三つの背景を整理すると、第一に多世代同居の減少で核家族だけでは従来の数十名規模の葬式を維持しにくいこと、第二に住宅事情の変化で近隣の住民を招きにくくなったこと、第三に「故人を自分たちらしい方法で送りたい」という価値観の多様化である。Living型は、喪主側のこうした心理的ニーズに直接応えるハードウェアとして機能する。
注目すべきは「貸切」という構造的利点
もう一つの見どころは「貸切型」(=一つの家族がその空間を独占して使える)という点である。参列者が廊下などで他の遺族と顔を合わせることを避けられるため、身内だけで静かに過ごしたい層に強く響く。参列者のプライバシー保護という観点から、近年この形態を選ぶ富裕層や著名人の遺族が増加傾向にあり、葬儀社の価格設定にも影響を与え始めている。
ビジネスへの影響
葬儀社が今すぐ検討すべき設備投資の方向性
新規出店や改装を検討する葬儀社にとって、Living型ホールの設計は一つのベンチマークになる。祭壇中心の固定レイアウトから、椅子やテーブルを動かせるモジュラー(=組み合わせ自由)な家具配置への転換、調光による温かみのある照明計画、和洋にとらわれない祭具の選択肢などが具体的な検討項目となる。投資額は大きくないが、「家族葬に強いホール」として地域での認知度が上がり、検索エンジン経由の問い合わせ件数に直結する可能性がある。
価格体系とサービス設計の見直しが必要な理由
貸切型のホールは、利用時間が限られるため一日の回転率(=同じ施設を何回貸せるか)が下がる。一方で、一件あたりの単価は高く設定しやすい。事業者は回転率と単価のバランスを見極め、プランニング段階で遺族に選択肢を提示する営業トークを磨く必要がある。例えば「基本プランに何が含まれ、追加で何が変わるか」を明確にすることで、Living型を選ぶ顧客と従来型を選ぶ顧客の双方が納得しやすい枠組みができる。
地域密着型の小規模葬儀社にこそ大きな商機
大手のホール運営会社は資本力でリビング型を先行できるが、全国に多数存在する地域密着型の葬儀社は逆に強みを発揮しやすい。地元の工務店やインテリアデザイナーと連携して、自社施設や提携式場にリビング型の要素を取り入れる試みは、初期投資を抑えながら遺族満足度を底上げする。具体的には、病院や介護施設との連携で退去時の遺品整理を含めた総合パッケージを提案するなど、Living型の理念をサービス全体に広げる発想が求められる。