ニュースの概要
ITmedia Businessが伝えたところによると、葬儀・火葬・墓石など終活関連サービスを提供する業界で、長年電話とFAXに依存してきた業務を見直すDX(=業務のデジタル変革)の動きが広がっている。中小事業者が大半を占め、遺族対応という感情労働の比重が大きいこの業界は、従来デジタル化が後回しにされがちだった。しかし近年は業界特化型のシステムを開発する企業や、DX支援を手掛ける事業者の存在感が増し、展示会でも「デジタル」「DX」を掲げるブースが目立つという。葬儀予約や顧客対応、式場運営の効率化が今後の焦点になると見られている。
引用元: 葬儀業界でDXが進展、電話とFAX中心の慣習にデジタル化の波(ITmedia Business)
分析・見解
電話とFAXが生き残ってきたのは非効率ではなく「安心」の装置だったから
葬儀は、注文住宅や保険と同じく一生に一度あるかないかの高額な決断を、強い悲しみの中で下す特殊な取引だ。深夜でも人の声につながる電話の安心感、手元に書面として残るFAXの確実性は、遺族にとって「失敗が許されない」場面の拠り所になってきた。全国に数万社あるとされる中小の葬儀社にとって、新しいシステムを入れる費用と覚える手間は、使い慣れた電話・FAXのメリットを上回りにくかったというのが実情だろう。特に高齢の利用者ほど、画面の操作よりも人の声による確認を信頼する傾向が強く、この心理的なハードルが低くなるまでには一定の時間がかかるとみられる。
他業界のデジタル化と比べると、葬儀業界の出遅れはむしろ理にかなっていた
飲食店の予約がネット予約に置き換わったのは、来店という行為自体に強い感情の負担がないからだ。一方、葬儀は単なる「予約」ではなく「依頼」であり、担当者の対応の質がそのまま契約の決め手になる。美容室や病院の予約がオンライン化で成功した流れを、そのまま葬儀業界に当てはめるのは無理がある。今回の記事が伝える変化は、電話での顧客対応そのものを置き換えるのではなく、その裏側にある見積作成・式場や霊柩車の空き状況の確認・請求処理といった事務作業を支えるシステムが先に広がり始めた段階だと見るべきだ。
式場や火葬炉の空き状況を電話で確認し合う「見えない在庫」問題が解消に向かう
葬儀の依頼は突発的に発生するため、式場や火葬炉の空き状況をその都度電話で確認し合う非効率が長年続いてきた。これをホテルの予約システムのように一つの画面で管理できれば、搬送の手配から式場決定までにかかる時間が大きく縮む。業界に特化したシステムを掲げる企業が展示会で存在感を増しているという今回の報道は、こうした「在庫の見える化」への投資が本格的に始まった証だと読み取れる。
接客は人が担い、事務処理だけをデジタル化する折衷型が主流になる
今後数年で起きるのは、すべてをオンラインに置き換える急激な変化ではなく、遺族対応は人が担い、見積・契約・請求といった事務処理だけをデジタル化する折衷型の普及だろう。結果として、資金力に乏しい中小事業者ほど、システムを持つ同業への業務委託や、合併・買収による業界再編の波に飲み込まれやすくなる可能性が高い。葬儀業界ではここ数年、全国チェーン展開する大手による地場葬儀社の買収がすでに相次いでおり、デジタル化の遅れはその動きに拍車をかける要因になりかねない。
ビジネスへの影響
システム選定より先に「どの業務を人から外すか」を決める
葬儀社がDX化を検討する際、多くはいきなり高機能な予約・顧客管理システムの比較から入ってしまう。しかし実務上まず決めるべきは、電話対応のうち「人でなければ務まらない相談対応」と「空き状況の確認や見積作成のような定型事務」を切り分けることだ。後者から先にシステム化すれば、現場スタッフの負担を増やさずに効果を出しやすい。特に見積作成や空き状況確認のような反復業務ほど自動化の費用対効果が高く、導入初期に成果を実感しやすい領域だと言える。
中小事業者は自社開発より業界特化型サービスへの相乗りが現実的
葬儀業界は依頼件数の季節変動が大きく、自社でシステムを開発・維持する体力を持つ事業者は限られる。複数の葬儀社が同じ基盤を共有する業界特化型サービスを使えば、初期費用を抑えつつ式場や霊柩車の空き状況を周辺事業者と共有する仕組みも作りやすい。導入時は、自社の顧客データをどこまで他社と共有する設計になっているか、契約前に確認しておくべきだろう。
効果はコスト削減より「深夜・休日対応の属人化解消」に表れやすい
導入効果を人件費削減だけで測ると失望しやすい。実際に効果が出やすいのは、特定のベテラン担当者しか対応できなかった深夜・休日の問い合わせを、空き状況の自動確認や見積作成の補助によって若手スタッフでも対応できるようにする点だ。属人化の解消は、事業承継を控える中小事業者にとって、売上拡大よりも優先度の高い経営課題になる。経営者がこの視点を持てるかどうかで、限られた投資予算の配分先が大きく変わってくる。